Every day 道明がいつもピアノを練習している部屋に入ると、そこには先客がいた。 「・・・」 その人物はピアノの上で耳にイヤホンをしたまま眠っている。 「おい、兼雅」 起こそうと道明が声をかける。 「うう・・・」 ふいに兼雅がうめき声をあげる。どうやら悪夢を見ているようだ。 よく見ると、顔に汗が浮かんでいた。 「兼雅!起きろ!」 道明は、慌てて体をゆすって起こしにかかる。 「あ・・・」 兼雅が目を覚まし、キョトンと道明の顔を見る。 「道明・・・」 「起きたか。ビックリするじゃないか」 ホッと道明の顔が安堵に歪む。 「え、何が・・・?」 兼雅はピアノから降りながら不思議そうに首をかしげる。 「何って、悪夢見てたんじゃないのか?うなされてたぞ?」 「ああ・・・、そういえば。昔の夢を見てたんだ」 兼雅はそういうと、うっすらと笑う。 「こんなところにいたから、見たんだと思う」 「・・・そういえば、兼雅って閉所恐怖症だったっけ。もう大丈夫か?」 道明が心配そうに兼雅の顔を覗き込む。 すると、その顔をぐいっと引っ張られた。兼雅の顔に近づく。 道明が驚いていると 「そんなに心配してくれるなんて道明ってば優しいな〜♪」 ニッコリと笑いながら兼雅がキスをする。 「わ!何するんだ!?・・・ちゃかすなよな!」 道明は顔を真っ赤にして怒鳴る。 だが、そのまま兼雅がぎゅーと抱きついてきた。その勢いで道明は床に座り込む。 (・・・えっ) 驚き声をなくす。 「・・・ほんと道明ってば優しいんだから」 ぽそりと兼雅の口から紡がれた言葉は、道明には聞こえない。 兼雅がぐいっと体を離す。 いきなり真顔になった兼雅に圧倒され道明は動けないでいた。 「じゃあさ、道明。俺を調律してよ」 「・・・は?」 道明は驚いたまま、兼雅の顔を凝視している。 「・・・・・・」 その場に沈黙が降りた。 「ぷっ・・・ふははは」 ふいに兼雅が絶えきれなくなったのか、大声で笑い出した。 「なっ、なんだよ!?」 道明が問いかける。コロコロ表情が変わる兼雅を見て、何を考えているのか分からなくなる。 「道明って、やっぱり面白い〜!にゃはは」 それを聞いて道明はムカッときたようだ。 「何が面白いだー!離れろよ!」 そして、いつも通りの会話が続き、キスの事はうやむやになっていくのでした。 …end. ------------------------------------ ■あとがき 花とゆめ喜多尚江さんの作品「ピアノの恋人」より。 10年前の作品なので知らない人が多いかもしれませんが、 書きたくてたまらなかったので書いてしまいました。 ・・・私、昔の作品の方が好きなの多いかもしれません。(笑) 2010/7/12 novel-top |